各務は、こうして株主に多大の利益を与えたのみならず、今日東京海上の斯界における地位がどんなものであるかは、左の数字によって明瞭する。
現在、我国には損害保険会社五十社を数えるが、その会社の払込資本金を東京海上のそれと比較するに、
全 社 100,315,000円
東京海上 30,000,000円
すなわち、総額の約三割に当たる。また、東京海上自身及傍系会社の海上保険株の払込を合算する時は、三千五百五十九万二千円に上り、総額の三割五分に当たる。なお、五十社の総資産は約五億五千万円で、東京海上は前記の通り一億五千万円、割り合いにすると二割七分強に相当するわけだ。何と大きなものではないか。東京海上 30,000,000円
以上は、東京海上の内地同業社に対する比較だが、欧米の大保険会社と較べると、一層その地位がはっきり判る。英国の会社は、名義は別個に存在するが、合併併合で一括して計算する者が多く、また多くの会社は生命保険を兼営しているから、簡単に比較出来ないけれども、海上保険だけの積立金を区別すると、東京海上は約五千万円の海上保険に対する資産を持っているから、英国のどの会社よりも大きい。米国の会社は、計算方法を異にするが、被保険者勘定に対する総資産において、東京海上の五千三百万ドルはまた最大で、米国のコンチネンタル、ホーム等の大会社においても約四千万ドル内外に過ぎない。だから、結論として、東京海上は、世界における最大のものといってよかろう。
幾多のナンバーワンとジャズは、米国人の世界に持つ最大の誇りである。これに反して日本には何かあるか、富士山と日光廟だけと世人は信じているかも知れないが、何ぞ図らん、世界最大の損害保険会社は、米国にもなければ欧州にもない。実は日本に存在する東京海上がそれである。大いに意を強くするに足るではないか。同時に東京海上をして今日の大をなさしめた各務は、最早や日本の各務ではない。まさに世界のカガミでなければならない。
以上、私は各務の経歴と東京海上の歴史について簡単に述べた。これから各務が如何なる
方法で今日の東京海上たらしめたか、また各務の性格私行等に関して述べて見よう。
従来、外国保険会社が、我が海上保険界に侵入を試みたことは度々あった。その都度東京海上に撃退されて、今ではほとんど影を没するに至った。数字で示すと、外国保険会社が我国から毎年持ち去る保険料は、生命約千万円、火災約七百万円に対して、海上はわずかに百万円、しかもその半額は、東京海上関係に属する。東京海上の存在が、欧米の同業者に対して如何に大きな脅威であるかが知れる。
その他東京海上は、欧米における大代理店ウィリス・フェーバー・エンド・デゥマ、ジョンソン・エンド・ヒギンス等に加うるに、ニューヨークに二つの分身会社スタンダード・インシュアランス・カンパニー・オブ・ニューヨーク、スタンダード・シュアティー・エンド・カジュアルティー・カンパニー・オブ・ニューヨークを設置し、ベルリン、チリの保険会社の株式の大半を取得する等、欧米の損害保険界に進出して着々成功している。現に同社の一ヶ年収入保険料は約四千万円で、その半額以上は海外から取得するという。海外の商売が盛んになった結果であろうが、総資産一億五六千万円の内五六千万円は、英米の銀行預金、または公社債株式等に放資してある。日本政府を初め、電気会社等が続々英米で借金しているので、外国人には日本は余程貧乏のように思われているが、独り東京海上のみは、借金どころかかえって資金を外国に供給しているのだから、大いに肩身の広さを感じるではないか。同時に、東京海上が国民外交上に貢献するところも少くない。
最近我が皇室は、御所有の日本郵船株を三菱に払い下げて公債をお買い上げになったと聞く。公債も結構ではあるが、進んで英米市場に御投資相成らば、外国人に好感を与え、かつ大いに国威を発揮し得るのみならず、両国に対して一層親善を増すであろう。敢えて、宮内当局者に一考を煩す次第である。